入社前はどのようなことをしていましたか?

幼いころからものづくりが好きで、ブロック遊びや段ボールなどを使った工作をよくしていました。小中学生の頃は理科(特に化学)が好きで、試薬を混ぜると色や性質が変わる化学実験にとてもワクワクしていた記憶があります。その影響もあり、高校生の頃は化学が得意教科となり、大学では化学の知識を深めつつ、将来ものづくりに携われるように工学部の化学系学科を選びました。中でも、反応を重ねて新たな化合物を組み上げていくプロセスに幼いころのものづくりに通じる面白さを覚え、有機合成を専門とする研究室を選びました。研究テーマは、天然に存在する生理活性物質の全合成でした。研究に取り組む中で、分子構造がわずかに変わるだけでにおいも変化することに気づき、有機化合物を「においを生み出すもの」として意識するようになりました。

長谷川香料に入社を決めた理由を教えてください。

就職活動では、自分が大学で学んだ専門分野(特に有機合成)の知識を活かせる仕事を探していました。当初は「有機合成を仕事にする」という視点にこだわり、製薬会社や素材メーカーを中心に見ており、正直なところ、香料会社は全く選択肢に入っていませんでした。しかし、研究室の先輩が前年の長谷川香料の選考に進んでいたこと、また私自身も「香り」の持つ奥深さに面白みを感じていたことから、興味を持って選考に参加することにしました。エントリーシートが通過し、会社説明会に参加した際、それまで意識していなかった「香料」という存在を初めて明確に認識しました。帰り道、スーパーやコンビニに立ち寄り、あらゆる飲料やお菓子の原材料表示を見て「ここにも香料が使われている!」と大きな衝撃を受けたことを今でも覚えています。それまで「香り」といえば香水やシャンプーくらいしかイメージしていませんでしたが、実は私たちの暮らしに深く根ざし、生活をとても豊かにしてくれているものなのだと知りました。そこから就職活動に対する視野が大きく広がり、香料という分野であれば、これまで学んだ合成の知識を生かす仕事があり、たとえ研究室のような「合成」そのものには直接携わらなくても、自分が学んできた有機化学の知識を大いに活かすことができ、かつ多くの人々の暮らしを彩ることで社会に貢献できると確信し、最終的に当社への入社を決めました。

現在どのような仕事をしていますか?

現在は食品の香気分析を担当しています。食品の香気は、非常に多くのにおい物質(成分)で構成されています。私の役割は、その食品の香りを形づくる成分が「何であり」、「どのくらい含まれ」、「どのようなにおいがするのか」という情報を詳細に分析・特定することです。フレーバリスト(調香師)が新たな香りを作り出していく過程において、私たちが提供する香気分析データは、日々の調香業務(フレーバー開発)の支えとなります。一口に香気分析と言っても、前処理(抽出操作など)や分析手法といったアプローチ方法は多岐にわたり、選択する手法によって得られるデータは大きく異なります。そのため、フレーバリストが目指す「香り」に最も適したアプローチで分析を進められるよう、日頃から密なコミュニケーションや意見交換を重ねています。これは調理法次第で同じ食材から異なる料理が生まれるのと似ています。例えば果物や野菜であっても、カットの仕方だけで驚くほど香りが変化します。ネギを例に挙げると、輪切り、みじん切り、あるいはそのままの状態かによって、それぞれの香りは異なります。フレーバリストが抱くイメージに対し、最適な前処理や分析手法を選択し、その理想に沿ったデータを取得することは、複雑で難易度の高い作業です。一方で、仮説を立てて試行錯誤し、新たな提案をしていくプロセスには、この仕事ならではの面白さがあります。フレーバリストが理想とする香りを創り出すための「処方箋(レシピ)」を描けるよう、しっかりと下支えするためにも、この双方向のコミュニケーションを何よりも大切にしています。また、研究成果が特許取得や、学会発表という形でアカデミックに評価されることや、他社の研究者や大学教授といった学外のエキスパートと交流・ディスカッションを行えることも、日々の大きなモチベーションとなっています。

これまでの仕事の中で、一番印象に残っているエピソードを教えてください。

配属されて間もない頃、あるサンプルの計量中に、あらかじめ差し引いておくべき容器や器具の重さを正しく把握しておらず、正確なサンプル量が分からなくなってしまったことがありました。当時は先輩にマンツーマンで指導していただきながら実務を行っていたのですが、計量の途中で「少し不確かかもしれない」と不安がよぎりました。一瞬そのまま進めてしまおうかと迷いましたが、不正確なデータのまま業務を進めるわけにはいかないと思い直し、叱られることを覚悟の上で「正確な重量が分からなくなってしまいました」と正直に先輩に報告しました。すると先輩は、叱るどころか「私も作業の前にきちんと気にかけてあげられなくてごめんなさい」と温かくフォローしてくださいました。さらに、そのサンプルは他部署から提供されたものだったため、その後の状況説明や追加サンプルの手配といった調整作業にも快く同行し、矢面に立って交渉をサポートしてくださいました。この経験から、ミスやトラブルが起きた際は早く・誠実に報告すること、その後に同じ問題を起こさないために対策を考えることの重要性を学びました。また責任を持って対応してくださった当時の先輩の姿勢は、指導する立場となった今の私にとって、後輩たちと向き合う上での大切な原点となっています。

普段、チームの雰囲気や周囲のサポートについてどのように感じていますか?

部内の環境で言えば、困ったことがあればすぐに相談でき、活発にディスカッションができるオープンな雰囲気です。印象に残っているエピソードでも触れましたが、何か問題が起きたときに「誰に責任があるか」という追及をするのではなく、「なぜその問題が起こったのか」「次に同じ問題を起こさないためにはどう対策すべきか」を建設的に話し合える環境があります。そのため、万が一ミスや失敗が発生してしまった際にも、萎縮することなく迅速に報告・相談ができる安心感があります。どれだけ細心の注意を払っていてもミスは起こり得るものですが、そうしたミスを恐れずに新しい挑戦を後押ししてくれる環境こそが、当社の大きな特徴だと思います。そして、会社は様々な専門部署の集まりですので、業務の中で自分の専門外の事柄に直面することは多々あります。そうした時に「なぜこうなるのだろう?」と主体的に探究できる人であれば、十分に活躍できるフィールドがありますし、他部署のプロフェッショナルな方々にも非常にフラットに相談できる職場です。どの部署の方も、こちらが相談を持ちかけた際にはいつも快く丁寧に回答してくださるため、本当に心強く、日々の業務の支えになっています。

今後挑戦したいことや、未来の仲間へのメッセージをお願いします。

大学を卒業して十数年が経ちますが、就職活動を始める前には想像もしていなかったほど、刺激的で奥深い仕事に携わっていると日々実感しています。香料という未知の業界に一歩を踏み出したことで、「香り」が持つ無限の深さや面白さ、そして人々の生活を彩る魅力を知ることができました。入社以来、目に見えない「香り」を分析というアプローチから解き明かし、フレーバリストの方々のものづくりをサポートしてきました。10年以上キャリアを重ねた今であっても、まだ解明されていない化合物や、完全に再現することが難しい食品の香気など、未知の領域は数多く存在します。しかし、その「まだ分からない」ということこそが、次の研究への強い「探究心」や「知的好奇心」の源泉となります。そうした知的なワクワク感を原動力に変え、新たな挑戦へ一歩を踏み出せる環境が当社にはあります。日々の暮らしの中で「香り」に心を動かされる方、そして「分からない」を「面白そう!」という情熱に変えられる方。ぜひ私たちと一緒に、新しい香りの可能性を追求してみませんか?

Columnエンタメ・アートからの刺激

最近読んで感銘を受けたサッカー漫画『アオアシ』の中に、後輩の指導や接し方において、非常に示唆に富むシーンがありました。作中で、主人公を指導する監督が発した「自分で、自分はそうあるべきと決めて進んだ。自分で掴んだ答えは一生忘れない。」というセリフです。この監督は、主人公の才能を最大限に引き出すために、安易に正解を教え込むことはしません。本人に自ら気づかせ、才能を活かすための実践的な経験を積ませつつ、必要に応じて思考を整理するためのヒントやきっかけをさりげなく提示する、というアプローチで指導を行っています。この、自立を促しながら答えを導き出す手助けをする姿勢は、若手社員や後輩たちとの向き合い方、そして指導のあり方として非常に参考になると感じています。