グレープフルーツ、オレンジ、リンゴ、マンゴーの香気分析を行ったところ、構造不明なある一つの成分がこれらの果物に共通して重要香気成分として存在していることが分かりました。この成分を、オレンジ精油の高沸点留分から減圧蒸留やシリカゲルカラムクロマトグラフィー、分取HPLCを駆使して単離しました。NMRやMSスペクトルなどの各種分析データから構造解析を行い、標品合成により本成分はrotundoneであると特定しました。グレープフルーツ、オレンジ、リンゴ、マンゴーのモデル香料を用いた飲料にrotundoneを添加したところ、極微量な添加量であってもそれぞれの天然の果物における香味特性を向上させることが分かりました。

フロリダ産ホワイトグレープフルーツおよびピンクグレープフルーツの果皮と果汁に対して、AEDAおよびSIDAを行い、rotundoneの香気貢献度および存在量を調べました。AEDAの結果、いずれにおいてもrotundoneの香気貢献度は高いということが分かりました。続いて、新規安定同位体標識化合物rotundone-d_2,3を用いたSIDAの結果、rotundoneは果皮と果汁で比べると、果皮に多く存在していることが分かりました。ホワイトグレープフルーツ果汁の香気再構築液へrotundoneを天然の存在量で添加したところ、rotundoneはホワイトグレープフルーツの複数の香気特性を天然に近づけさせることが分かりました。

上述の果物4種の香気分析において、rotundoneと類似のRIおよびマススペクトルを有する構造不明成分が検出され、その物性よりrotundoneの立体異性体と推測されました。rotundoneの立体異性体に関しては、未だ報告例はないため、本成分の解明を検討しました。rotundoneをNaOEtで処理すると、微量だった目的成分が増加することが判明したので、分取HPLCにて単離を行いました。単離した目的成分の各種NMRデータをrotundoneと比較することによって、目的成分を3-epi-rotundoneであると決定しました。香気評価の結果、3-epi-rotundoneは閾値を除いてrotundoneと類似の香気特性を有しており、新規香料素材として有用であることが分かりました。