Rosa damascena(ダマスクローズ)の花の香気分析を行い、これまでバラの重要香気成分として認知されていなかった2成分を見出しました。
バラの香りに関する研究はこれまでに世界中で数多くなされてきましたが、いまだに科学的に香りを再現しても本物のバラの香りには到達できず、未解明の微量成分が多数存在すると考えられています。また、工業的に生産されているバラ精油も、その加工工程で香りの変化が生じるため、生花とは香りが異なります。本研究では、天然のバラの香りを再現することを目的とし、バラ精油の原料に用いられる品種であるRosa damascenaの花弁から発散される香気成分を詳細に分析しました。
Rosa damascenaの花弁のヘッドスペース香気を捕集して得られた香気濃縮物についてAroma Extract Dilution Analysis (AEDA) を行い、重要香気成分を絞り込みました。その結果、バラの香気成分としてよく知られているgeraniol、2-phenylethanol、citronellol、(Z)-rose oxide、eugenol等に加え、2つの微量な不明成分(woodyおよびcitrus-like)が高いflavor dilution factor(FD値)で検出されました。woodyな不明成分は、2次元GC-MS分析によりrotundoneであると同定しました。citrus-likeな不明成分は、香気濃縮物の分析による同定が困難であったため、Rosa damascenaを原料としたローズアブソリュートから単離・精製を試みました。最終的に、アブソリュート330 g(バラの花弁約330 kg相当)から不明成分2.8 mgを単離し、構造解析および合成品との比較の結果、4-(4-methyl-3-pentenyl)-2(5H)-furanone(MPF)であると同定しました。これら2成分は、Rosa damascenaだけでなく、Rosa centifoliaや園芸品種の‘ネージュパルファン’および‘ヨハネパウロ2世’の花のヘッドスペース香気からも検出され、複数のバラの品種の香気に寄与している可能性が示唆されました。
さらに、MPFは、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、リンゴ、マスカット、紅茶およびビール(麦汁)等の食品素材からも検出されました。
Rosa damascenaの香気再構築液に対するrotundoneとMPFの添加効果試験を行った結果、両成分を同時に添加した場合にコントロールと有意な差が見られ、「華やかさ」や「天然感」等が向上すると評価されました。
MPFは、これまでその香りに関する具体的な報告は無く、今回の研究により香料素材として有用であることが初めて明らかとなりました。そこで弊社ではこの化合物についてDAMASCENOLIDE®という商標を登録しました。
【発表学会】 | Weurman Flavour Research Symposium 2017(オーストリア)2017年 |
【発表タイトル】 | Identification of odor-active trace compounds in roses and fruits |
【発表者】 | Teruhisa Ohashi, Yamato Miyazawa, Tetsuro Shibuya, Susumu Ishizaki, Yoshiko Kurobayashi, Tsukasa Saito R&D Center, T. Hasegawa Co., Ltd. |