フレーバー官能評価/生理応答計測香気分析

昆布だしのおいしさに

寄与する香気成分を探索

昆布は佃煮、煮物、とろろ昆布、昆布茶など食用方法は多様です。昆布から調製される「昆布だし」は日本料理の基本であり肝であります。そのおいしさはグルタミン酸やアスパラギン酸といった呈味成分だけでなく、揮発性成分である香りの寄与も大きいと考えています。そこでおいしさに寄与する香気成分を見つけるために分析を行いました。

昆布の種類によって風味は異なりますが、今回は京料理で特に好まれ、澄んだ癖のない上品なだしが引けるといわれる利尻昆布を選択しました。分析試料に使用した昆布だしは甘黒い香りが強く、バランスと香り立ちの良いものでした。調製した昆布だしを減圧蒸留法し、得られた香気濃縮物について Aroma Extract Dilution Analysis (AEDA) を行い重要香気成分の絞込みを行い、おいしさに寄与する香気成分の探索を行いました。

この研究成果は2017年9月9日~11日に開催された第61回香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会(会場:金沢工業大学/石川)で発表しました。本研究は龍谷大学と京料理木乃婦と共同で行いました。

昆布だしより捕集した香気濃縮物でのAEDAの結果、香気貢献度の高い成分としてキノコ様1-octen-3-one、メタリックな (5Z)-1,5-octadien-3-one、フローラルなβ-ionone、メタリック・オイリーなtrans-4,5-epoxy-2(E)-decenal、甘黒い sotolon、ミルキーな(Z)-6-dodecen-4-olideなどを特定しました。特定ができなかった香気貢献度が高い成分に、甘黒くかつ昆布を想起させる香気を有する不明成分がありました。その香調から昆布だしのおいしさへの寄与が大きい化合物だろうと考え、同定を試みました。昆布だしから得られる香気濃縮物は微量なため、不明成分が含まれかつ大量に入手できた海藻抽出物から単離を行いました。単離物のスペクトルデータより推定した化合物を合成した結果、不明成分は(5Z)-3,4-dimethyl-5-propylidenefuran-2(5H)-one であると同定しました。この化合物は甘黒く、コンブ様の香気を有しており、弊社既存の昆布だしフレーバーに添加すると後引き・余韻、昆布だしらしさが増強されることを確認しました。本研究で(5Z)-3,4-dimethyl-5-propylidenefuran-2(5H)-oneを天然物中から初めて同定し、昆布だしのおいしさに寄与する重要な香気成分であることを見出しました。

【発表学会】 第61回香料・テルペンおよび精油化学に関する討論会(石川)2017年
【発表タイトル】 昆布だしの重要香気成分
【発表者】 冨田直己1、網塚貴彦1,2、増田唯1、原口賢治1、稲永俊介1、斉藤司1、高橋拓児2,3、伏木亨2
1長谷川香料株式会社 総合研究所、 2龍谷大学、3京料理 木乃婦